第436回  < ファンド所在地としてのケイマン諸島について >

一般にはあまり知られていないように思いますが、カリブ海にあるイギリスの海外領土であるケイマン諸島は、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドの所在地として有名です。1503年の大航海時代にコロンブスによって発見されたケイマン諸島は、グランドケイマン島、ケイマンブラック島、リトルケイマン島の3島からなり、2022年時点の人口は約64,000人です。

ケイマンはタックス・ヘイブン(租税回避地)としても有名で、なんとなくグレーなイメージを伴いますが、現地での租税は回避されるものの、海外の金融機関を利用した脱税を防ぐ仕組みが出来ています。具体的には、各国の税務当局は自国の金融機関から非居住者の口座情報を受理して情報交換を行うことで仮にケイマンを経由した投資であったとしても、投資家などの居住地での課税によって補足される仕組みとなっています。

多くの金融機関が投資先ファンドの所在地として引き続きケイマン諸島を活用しているのは、ファンド所在地としての長い歴史の中で、弁護士事務所、事務管理会社等のファンド関連のサービス提供のインフラストラクチャーが充実しているためでしょう。特に日本の機関投資家は過去30年ほどにわたりケイマン籍の(私募投信やパートナーシップ形態の)ファンドに投資してきました。法的な整備が行き届いており、かつ利用者の多いケイマン籍ファンドは取組がしやすいためです。また、国際的にも大手機関投資家は他の地域に比べてケイマン籍ファンドを選好する傾向があるのは、ファンド設定に特化したサービスをサポートする同国の取組の成果によるところが大きいかもしれません。

本コラム執筆中、日本は資産運用立国を掲げて「ジャパンウィーク」を開催しています。多くのフォーラム、セミナーが開催され、海外の投資家、運用会社も多く訪れる中、ケイマンの副首相兼商務大臣のEbanks氏も来日しており、個別に面談を行いました。前述したように、日本はケイマン籍ファンドのユーザーを多く抱える国であり、同国としても日本を重要な顧客としてみなしています。特に、近年、国内のプライベートエクイティファンドは海外投資家の数が増えていることからケイマン籍ファンドの設定を増やしてきました。一方、国内ベンチャーキャピタル(VC)については海外投資家からの投資が限定的であることから、ケイマン籍ファンドの設定は伸び悩んでいます。今回、その背景と今後の傾向について等のトピックでディスカッションをしましたが、今後5年程度の時間軸で見れば日本のVCについてもケイマン籍の活用が多くなるのではないかと結論付けました。

マネーロンダリング対応やコンプライアンス意識の高まりから、ケイマン籍ファンドに対しても規制や要請が多くなり、10年、20年前に比べるとファンド設定、維持のコストは大きく上昇しましたが、現地政府、企業の努力もあり、当面の間ケイマンはオフショアファンドの所在地のトップランナーであり続けるように思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です