第402回 < イスラエル出張について >
このコラムを書き始めた2005年から、海外出張をする度にこの場を借りて出張報告を書いてきました。振り返ると、コロナ前の最後の海外出張は2019年9月の香港(第330回 香港出張から戻って )とニューヨーク(第320回 ニューヨーク近郊の景色 )への出張でしたので、3年以上海外に行っていないことになります。ビデオ会議システムの発達により、海外投資家や投資先との対話は維持できましたが、対面でのコミュニケーションによって得られる情報量や信用の構築には及ばないと常々感じています。
2022年10月以降、海外からの渡航者も一気に増加し、業界団体で主催する国際会議などにも海外からの参加者が多くなりました。私たちとしても、海外でのイベントに参加し、また、疎遠になっていた関係者と対面でのミーティングを持つ時期がやってきたと思っています。当社でも、プライベートエクイティ投資を行う、3号セカンダリーファンド「Ariake Secondary Fund III」を今年の4月に設立し、投資家、投資案件ともに海外が含まれている中、実際の訪問を行わないのにも限界があると思っていました。
今回、3年ぶりとなる最初の出張先はイスラエルとなりました。2004年から付き合いのある、イスラエル拠点のベンチャーキャピタルの投資家総会への出席が渡航の理由でしたが、実際には現地に集う投資先、投資家の皆様との久しぶりの対面での交流が主な目的でもありました。私がはじめて海外渡航を経験してから36年間で渡航先国はざっと数えても40ヵ国以上ありますが、イスラエルに行くのは初めてのことです。
現時点では、日本からの直行便がないため、今回はドバイ経由でテルアビブの南東のベングリオン空港に入りました。来年3月からイスラエルのエルアル・イスラエル航空が直行便を開設するというニュースがあり、旅行時間はだいぶ短縮される予定ですが、乗り換えも含めると成田空港から20時間の長旅です。今回の滞在先である地中海沿いの都市テルアビブに着くと、ハワイと見紛うばかりの美しいビーチが広がっています。海外線沿いに比較的新しいホテルやビルが立ち並び、海岸線の先には4000年前の古代都市からの歴史を有するという港町ヤッファが見えます。
投資先のミーティングでは、イスラエルのベンチャー企業の話を多く聞くことになります。イスラエルでは、年間約1000社が起業すると言われるほどのベンチャー大国です。人口9百万人ほどの国にもかかわらず、サイバーセキュリティ関連に代表される有望なITスタートアップ企業が常に創設されている秘密は国家の継続的な取り組みにあります。その中には優秀な人材の移民受け入れ、英才教育プログラム等もありますが、最もユニークなのは「起業家養成所」とも言われる独自の兵役システムにあります。男女ともに兵役義務のあるイスラエルでは、特に優秀なエリートを軍事テクノロジー開発部隊「タルピオット」とサイバー諜報部門「Unit8200」に配属し、自国を守るテクノロジー開発を行わせます。通常、男性3年、女性2年の義務が課されている兵役ですが、これらの特殊部隊に配属された人材は5年以上在籍することが多く、兵役後は獲得したテクノロジーを基盤に起業する、あるいは、有望スタートアップ企業に加わるのが一般的です。今回のミーティングで説明を受けたス
タートアップ企業の創業者も多くがこれらの特殊部隊出身者でした。
投資関連での目を見張るような特徴のみならず、イスラエルの歴史、文化は、聖地エルサレムにみられるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の複雑にからみあった歴史や、現在も抱えるパレスチナ問題など、現代の地政学的問題を学ぶ上で避けられない内容を多く抱えています。今回の訪問を機会に、イスラエル企業への投資検討に際して、その技術やビジネスのみならず、国とのかかわりや文化について、より掘り下げて見ていくようにしたいと考えています。