第401回 < 2022年10月日銀金融システムレポートを読んで >
毎年4月と10月の2回、日銀から公表されている金融システムレポートは、金融システムの安定性を評価し、日銀による金融システム安定確保に向けた課題について議論しています。当レポートは、国内外の金融市場を取り巻く環境を、銀行を中心とする国内金融機関の立場から網羅的に分析しているため、金融関係者としては足下の状況を整理するために大変有用であると考えています。この5年間、本コラムでもレポートが公表されたタイミングで内容を要約しながら、筆者としての意見を書かせていただいています。
今回公表された2022年10月のレポートは、金融機関が十分な自己資本と流動性を確保していることを理由として、引き続き日本の金融システムは全体として安定性が維持されているとコメントしています。一方、今回のレポートでは、これまでよりも多くの問題意識が提起されていたように見られました。
はじめに、総与信の拡大における住宅ローンの増加、不動産業向け貸出の増加が再び顕著となっている点が指摘されています。また、足下では、海外投資家による国内不動産物件の取得とそれに伴う融資の増大が目立っていること、新規のオフィス賃料の低下傾向、レバレッジの増加がみられていることが、将来的な不安要素と思われます。続いて、最近のエネルギー、原材料価格の上昇が企業財務に与える悪影響について触れられました。企業が製品販売への価格転嫁が出来ない場合等、デフォルト確率が上昇する可能性について言及がありました。また、海外貸出におけるレバレッジドローン案件のレバレッジ上昇によるリスクの高まりも指摘されています。
最後に、日本の銀行が直面する問題として、足下の有価証券投資による評価損失の増大があげられています。各国中央銀行の利上げ継続が海外債券の評価損を拡大し、長短金利差の逆転によって外貨の運用利回りを調達金利が上回ることで、さらに評価損が拡大する可能性が指摘されています。結果として、銀行の益出し余力(損失吸収力)が低下し、結果として一部の金融機関による貸出スタンスの慎重化を通じて金融仲介機能が低下する可能性を懸念しています。
今回のレポートは、過去5年間と同様、国内金融機関はリーマンショックのような危機に対して十分な自己資本と流動性の確保によって対応が可能であると述べつつも、これまでに比べるとやや警戒的なトーンが強くなったように思われます。これまで金融機関の健全性を支えてきた取引先企業の財務基盤の安定性、デフォルト確率の低さが、不安定さを増す景気や原材料価格、エネルギー価格の上昇によって変化した場合、銀行のファンダメンタルが大きく変化する可能性があります。さらに、足下の金利状況による有価証券資産へのマイナス効果が今後1-2年の時差をもって金融機関のポートフォリオに効いてくることはほぼ間違いないと思われます。あわせて個人住宅ローン及び不動産賃貸業向けの多額の融資が毀損するような事態が加われば、金融機関が現在の健全な自己資本と流動性を確保することが困難になると思われます。
長期投資を行う私どもは、短期的な市場の動向に振らされるべきではなく、継続的な投資が重要です。しかし、今後1-2年については、ここに述べられているリスク要因を把握し、リスクシナリオに耐えうるポートフォリオ運営を心掛けたいと考えています。