第416回 < バイアウトファンドの適正なレバレッジ (1) >

PEファンドが企業をバイアウトすることで高いリターンを上げることが出来る要因として、ファンドが対象企業を安く買い取ることや、買収後に起業の経営に関与して売上や利益を向上させること等があげられ、その分かりやすさから多くの人が理解しています。しかし、バイアウトファンドの収益の源泉として、レバレッジ、すなわち借入が大きく寄与していることは、直観的にはわかりにくいかもしれません。国内と海外ではファンドによるレバレッジの水準が若干異なりますが、最近のバイアウト市場では、EBITDAに対して負債が約7倍、負債を時価総額で割った値は50-60%で推移しているようです。

一般的な企業では、財務レバレッジ(総資本÷自己資本)をある程度高めることでROE(自己資本利益率)を上昇させることができます。「ROE=当期純利益÷自己資本=売上利益率×総資本回転率×財務レバレッジ」という式からわかるように、自己資本を低めて借入を増やすほど会社の自己資本に対する利益率は上昇します。厳密には、財務レバレッジを上げると支払利息の増加による法人税減税の効果も生じるため、節税効果のメリットも生じます。しかし、金融機関が自己資本比率に制限を設けているように、高い財務レバレッジは会社の倒産リスクを増やすことになります。このような財務レバレッジの適正な水準は業種によって異なりますが、一般的には2倍程度が適正値と言われています。

一方、バイアウトファンドは企業買収を行う際に、金融機関などを通じてLBO(レバレッジド・バイアウト)ファイナンスを利用することで投資効率を向上させます。LBOファイナンスを活用することで、バイアウトファンドは自らの株式投資の金額を抑制することができ、結果としてリターンを向上することが可能になります。もちろん、レバレッジのためのローン部分は、買収後の企業の負債として計上されるため、当該企業の財務レバレッジが大きく増加した状態になります。したがって、バイアウト後の企業は高いROE
を出せる状況であるとともに、高い財務レバレッジによるリスクの高い状況になっていると予想されます。しかし、この考え方には議論が多く、同レベルの財務レバレッジの低い同業の上場企業と比較して、バイアウト後の企業のリスクが低いか同程度という研究結果もあるようです。

2017年にKKRが自動車部品メーカーのカルソニックカンセイを約5000億円で取得して話題になりました。当時の財務諸表を見てみると、買収後の2018年3月末財務レバレッジは約13倍とかなり高い数値に見えましたが、カルソニックカンセイ株を保有している買会社であるCKホールディングスは、その後、2019年にKKRは、カルソニックカンセイの同業大手のイタリアにあるマレリの買収を行いました。買収、合併の終了した2020年12月31日時点で、新会社マレリの財務レバレッジはいったん6.2倍に落ち着きましたが、EBITDAと負債の比率はおよそ適正値を超えているように見えます。グローバルの市況の影響や日産の減速などの外部要因によるところが大きかったマレリの破綻ですが、KKRの買収時とそれ以降の財務レバレッジが適正値を超えていたことが原因とも思えます。それでは、一体どの程度のレバレッジがバイアウトファンドととして好ましい水準なのでしょうか。次回のコラムで検証してみたいと思います。

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