第313回 < 2019年の投資環境予想 >
2019年最初のコラムとなります。本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。本年が皆様にとって素晴らしい一年となりますよう、祈念申し上げます。昨年の今頃を振り返ると、日経平均株価が3万円まで上昇するという強気の予想を掲げている方もいましたが、実際には最高値が2万5千円に届かないまま、年末にかけての急落となりました。今年は一転、慎重なコメントが増えたような気がします。つくづく、われわれの相場予想は足元の雰囲気に左右されるものだと感じます。とはいえ、これまで毎年続けてきましたので、今年も私なりに今年の市場環境について考えてみたいと思います。
1. クレジット戦略ですが、長らく2%台の低位で推移している米国の倒産確率は、引き続き低位安定が見込まれます。しかし、企業の借り換えサイクル到来と、米国金利上昇及び、年後半にかけての景気減速から徐々に倒産確率が上昇し、それに伴いクレジット・スプレッドが拡大する局面があるかと思われます。しかし、プライベート・クレジット戦略ファンド等のイールドの見込める投資対象に対する旺盛な投資家需要が見込まれ、金融機関以外の貸出の担い手の資金供給が大きいことから、スプレッドの拡大幅は抑えられると予想します。クレジットからのリターンは、年間を通してみると若干のマイナスとなると想定しています。
2. 商品市場については、昨年末に40ドル前半まで下落した原油価格ですが、OPECやロシアの減産から需給に引き締まりがみられ、徐々に上昇しています。しかし、株式などのリスク資産のボラティリティ上昇につられて今後も上下に乱高下するものと思われます。原油価格で35ドル~60ドルのレンジの推移を想定します。また、金価格はここ数年1オンス1,200ドル~1,300ドルの狭いレンジでの動きが続きましたが、不安定な市場でのリスク回避先として堅調な展開を予想しています。年末にかけて1,400ドルを目指す展開になると考えます。
3. イールドカーブについて、2018年の米国金利は4回の利上げとなりましたが、昨年同様自然利子率は低位推移しており、長期金利への波及は限定的でした。結果として2年と5年で逆イールドが発生するなど、将来の利上げについて市場は否定的な見方をしています。2019年には2回の利上げを予想するエコノミストが多くなっています。個人的にも年後半にかけての景気減速感が出るものの景気指標への影響が遅れることもあり、2回の利上げは行われると思います。一方、株価の低迷などから安全資産としての債券投資が復活することで、米国の長期金利の上昇は抑えられ、年末には2年10年でも逆イールドが発生すると想定しています。
4. エマージング市場は、地政学的なリスクの高まりの影響を受けて不安定な展開を予想しています。たとえば、中国は米国との貿易摩擦の高まりが物価や消費に影響する可能性や、不動産市場でのバブル崩壊が顕在化するリスクを抱えています。年内にいくつかの問題が噴出するものと思われ、エマージング株式市場は今年も冴えない展開を想定しています。中国株式市場は上海総合指数などで昨年と同様の下落を想定します。
5. 市場の変動率は地政学的リスクの高まりや、中国市場の混乱に押されて大きく上昇する局面があるものと想定します。VIXで40を超えるタイミングが最低1度は起こるものと考えます。米国の連邦政府閉鎖をはじめとする政治的混乱は今後拡大傾向にあると思われますし、2019年3月29日の英国EU離脱の期限を迎え、年前半に一度市場の混乱が訪れる可能性も考慮に入れています。
6. 日本株式市場は、比較的健全な状況にある日本企業が多いことからファンダメンタルズは良好であろうと思われます。しかし、中国市場をはじめとする周辺環境の悪化及び国内金融機関の収益悪化が重石となり、日経平均株価が15,000円から17,000円のレンジに移行する可能性を考えています。
昨年に比べて市場全般に対して警戒心を持っている投資家はさらに増えてきました。また、キャリー取引の増加(オプションの売り戦略)、レバレッジの増加、低流動性資産に対する投資の増加が随所で目立つようになりました。特に国内金融機関の不動産関連の融資や買収案件レバレッジローン、海外プロジェクトファイナンスに対する貸出量の増加の中に不安要素がないかが気になるところです。しかし、相場の格言には、「もうはまだなり、まだはもうなり」と、独善的な判断をいさめる言葉があります。2019年は「己亥(つちのと・い)」となり、干支の意味するところとしては悪くないようです。今年も自分の予想に拘ることはないようにしつつ機会を捉えて良い投資をできるように前進していきたいと思います。
今年も1年、お付き合いいただきますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。