第289回 < 2017年の投資環境を振り返って >
気づけば年の瀬となりました。今年の日本株投資環境がこれほどまでに好調に推移するとは、昨年末の段階では想定しておらず、年初に想定したヘッジファンド関連の市場環境を本コラムに記載するようになって12年となりましたが、日本株式市場については想定と現実の乖離幅はこれまでで一番大きいものとなりました。昨年末に日本株が上昇しないと想定した理由としては、米国金利の上昇による資産価格上昇への抑制効果が見られ始めること、また、前回金融危機時並に上昇している株価収益率(PER)を見ての株式市場への高値警戒感が投資家の投資行動を鈍らせるのではないかという思惑からでした。一方で、株式市場のボラティリティが上昇することでヘッジファンドの収益機会が増加するとみていましたが、ふたを開けてみると、ヘッジファンドの好調さは株式市場の好調に支えられ、また、過去数年と同様に株式市場の影に隠れてしまった感もありました。
今年の状況をあらためて振り返ると、米国の緩やかな金利引上げにも関わらず世界的にカネあまりの状況が継続しており、資金が裾野を広げて同心円状に様々な金融商品に浸透していく過程が続きました。高値を更新する株式市場、高騰を続ける不動産などは従来からお馴染みの資産クラスですが、例えば、ビットコインのような新しい投資対象に対しても投機的な資金が急速に流入しています(
http://www.astmaxam.com/mailmagazine/mail.php?detail=281 )。
また、米国ではかつてサブプライムローンで起きたことが証券化された教育ローンという形に姿を変えていつか来た道を辿っているように見えます。
このように過剰流動性ともいうべき資金が市場の隅々まで流れ込んでいく中、一部で発生しているバブルがどこまで膨張するかの予想は困難です。しかし、過去の経験では、【1】投資家がキャリーを追い求めるあまり利回りが圧縮されることからレバレッジが上昇し、【2】オプションのショートと同意義の投資が増加し、更に【3】投資家自身の資産と負債のバランスを無視した形で低流動性資産への投資が増加する環境が続いたときは、数年で自浄作用ともいうべき市場の揺り戻しが発生し、1998年、2002年、2008年に見られるように比較的大きな下落相場につながりました。足下、2008年の市場下落が大規模だっただけに、谷深ければ山高しとばかりに史上最高値を更新していくアメリカ株とそれに追随する他国株式市場とその他のリスク資産ですが、徐々に当面の高値圏でのもみ合いでの天井形成に移行し、その後下落相場につながる可能性を想定しています。
しかし、日本国内に限定すれば、景気鈍化や株価急落のリスクシナリオは簡単には思い当たりません。国債の流動性低下による価格急変の可能性、金利が急速に上昇した場合の不動産価格急落リスク、ビットコイン狂想曲終焉による短期的な波乱、銀行の収益力鈍化による経営破綻とそれに伴う資金流動性の低下。他は北朝鮮問題などの地政学的なリスクというくらいでしょうか。人口動態に伴う中長期的な悲観的な見通しとは裏腹に、足下の日本経済はかなり落ち着いて見えます。
月並みな結論となりますが、現在の市場環境にあっては、これまで掲げたようなリスクシナリオを念頭に置きつつ、慎重に淡々と投資を継続するのが吉ということになるかと思います。市場の波乱時に想定外の大被害を蒙る可能性のある、高レバレッジ商品、オプションのショートとそれに類する金融商品、自身の負債側の期間に見合わない低流動性資産などへの投資を避けつつ、短期的な波乱に動じることのないポートフォリオ構築を心がけたいと考えています。
今年も皆様に支えられた一年となりました。厚く御礼申し上げます。2018年が皆様にとって素晴らしい一年となりますように心よりお祈り申し上げます。良いお年をお迎えください。