第286回 < 東京の路地裏の景色 >
久しぶりに銀座を歩いて街中を見回すと、新しいビルが立ち並び、観光客らしき人々で歩道は混み合っています。まだ中には入ったことがありませんが、松坂屋跡地にできた「Ginza Six」は巨大なビルで、外観は最新の美術館のようにも見えます。2013年に歌舞伎座がリニューアルしたくらいから、銀座の街並みがドンドン変わっている印象です。社会人を東京でスタートしてからこれまでの間で、この数年の変化が一番激しいように感じていますが、実際はどうなのでしょうか。
一方、ちょっとした機会に路地裏を歩いてみると、変化の波は多少緩やかなように感じます。いまでも間口の狭い細いビルが立ち並び、歴史を感じる画廊や食堂もたくさんあります。もっとも、徐々に、しかし確実に変化が起きているようです。若いころに何度か行った日本の洋食発祥の地とも言われる老舗洋食屋の煉瓦亭のすぐ横にある、昭和6年創業のキャバレー「白い薔薇」が2018年1月で閉店するというニュースを目にしました。一度も中に入ったことがないのですが、非常にレトロな感じの建物で、今でも25年前に見た姿と大差ないように見えます。しかし、建物老朽化に伴う閉鎖ということです。
ロンドンに住んでいたころに感じたのは、ヨーロッパの街並み全般に言えることですが、古い建物の保存に国や自治体、そして人々が熱心なことです。老朽化した建物を建て替えるときも、古い街並みの外観を損なわないようにする気遣いが随所に見られます。そのため、10年、20年を経て再訪したときにも、懐かしい既視感をもって街を歩くことができるように思えます。欧州ではパリやブリュッセル、その他の郊外の都市、米国でもボストン、マンハッタンやシカゴなどでも同じことが言えるように思います。ちょっとした路地裏を再訪したときに、昔のままの街並みが現れたときの喜びは旅行者の醍醐味だと思います。
世界でも有数の観光都市になろうとしている東京ですが、今、日本を、東京を初めて訪れている世界中の旅行者が、10年、20年を経て日本に帰ってきたときに、変わらない場所があることはとても大事なことなのではないかと思っています。日本人の私ですら、数年気をつけて見ていなかった場所を訪れたときに、一瞬自分がどこにいるかを見失ってしまいそうになります。社会人のスタート時から10年働いて慣れ親しんでいた大手町でさえ、この数年の変化はあまりにも大きく感じます。
国際的なビジネス都市として最新のファシリティを備えたオフィスビルや商業ビルが立ち並ぶ姿は、東京を愛する人間として、頼もしく、誇らしい気持ちにもなります。しかし、一歩入った路地裏の街並みには、歴史を感じさせる景観を残しておいてほしいと思うのは、時代の変化に取り残されつつある身の感じるノスタルジーでしょうか。