第285回 < 日本銀行による我が国の金融システムの現状分析について >
日本銀行が年二回公表している「金融システムレポート」の最新版が10月23日にリリースされました。日本の金融システムに関する包括的な定点観測に基づき、日銀がその時々にテーマとして取り上げている内容を掘り下げて分析、検証しており、日本経済の現状を知るために極めて貴重な資料となっています。分析対象として、大手行10行、地方銀行64行、第二地方銀行41行、信用金庫255庫を対象としており、トピックによっては生損保や外資金融機関なども対象としているため、金融機関の状況のみを透かしての調査報告というバイアス(偏り)はあるものの、きわめて網羅的な内容となっています。
今回のレポートを見てみると、経済環境については、金融緩和政策が継続している中、マクロ環境は概ね安定しているという評価でした。一方、金融機能全体としては、リーマンショック並みのイベントが起きたとしても耐えうる状況にあるとしたうえで、金融仲介機能を持つべき個別の金融機関についてはその脆弱性についての警戒色を前面に出した内容でした。特に、固定費が嵩みがちな個別金融機関の収益力の低下と、人口減少などにより資金需要が低下する中で、多すぎる銀行数から生じる需給のギャップを繰り返し指摘しています。
そのうえで、レポートは金融機関に対して以下のような提言を行っています。(1)提供するサービスの差別化や⾮資⾦利益の拡⼤による収益源の多様化など、自らの強みを活かした収益⼒強化に努めていくこと、(2)よりきめ細かい採算管理を実施し、他⾦融機関との競争も踏まえた効率的な店舗配置や提供するサービスの⾒直しを行うこと、(3)業務改⾰を進め、設備と従業員の適正配置によって、労働⽣産性を向上させていくこと。そのうえで、⾦融機関間の合併・統合や連携も、収益性改善の選択肢の⼀つである、とまで踏み込んだコメントをしています。
データとしても、銀行の収益健全性の目安となるコア業務純益と、安全性の目安である自己資本比率をとりあげつつ、「⾦融機関の収益⼒の低下に伴う潜在的な脆弱性としては、マクロ的なリスク蓄積や資産価格等への影響が⾏き過ぎる過熱⽅向のリスクと、収益の減少に⻭⽌めがかからず⾦融仲介が停滞⽅向に向かうリスクの両⾯をみていく必要がある。」と問題点を指摘しています。
金融機関は、長引く金融緩和と縮小する金利スプレッドによって収益基盤を削られており、人口動態の変化の逆風とあわせて極めて厳しい経営を強いられています。金融政策に端を発する部分もあるため、日銀がこのような警告を発することについては意見がでるかもしれません。しかし、指摘されているような状況に対応していくための時間があまり残されていないことを考えれば、現状を直視して、すぐに動く必要があるのも事実だと感じます。
一般の投資家の観点からみると、銀行をはじめとする金融機関は社会の限られた一部にすぎません。しかし、金融システムの中で銀行が果たしている役割は極めて重要ですし、私たちの生活にも大きな影響をもっています。今後の政府、日銀の政策と、各金融機関の動向を注視し、私たちにできる役割を果たしていきたいと考えています。