第364回 < 米国長期金利上昇の影響 >
コロナ禍の影響で長らく低迷していた米国の長期金利が、ようやくコロナ前の水準まで戻ってきました。このコラムを書いている2021年3月初に、指標となる米国10年金利が1.6%近辺まで上昇していますが、これは、2020年2月の水準となります。2020年3月9日には、パニック的な株価の急落と共に、長期金利が一時0.36%をつけましたが、足下、米国におけるワクチンの普及や、景気指標の改善などを受けて長期金利水準が回復してきました。
名目長期金利の上昇は、経済の潜在成長率と合致する(はずの)実質金利と、インフレーションへの期待、リスク・プレミアムの上昇に起因して起こると言われています。したがって、米国における金利上昇は、【1】長期的な潜在成長率が上昇し、【2】物価上昇への期待が形成され、【3】金融商品に対する期待収益率が上昇する、という要因のいずれか、あるいは、そのすべてを織り込んだ結果と推測できます。一方、米国株式市場は、コロナによるパニック売りを受けた昨年3月の大幅下落後の大規模金融緩和、財政対策を受けた上昇基調の過程にあります。今年2月にはSP500指数が史上最高値を更新しました。
一般的に、債券と株式の魅力度を比較する手法に、イールドスプレッドを使う方法があります。米国10年国債の利回りからSP500の株式益利回りを引いて算出するイールドスプレッドが一定水準を超えてくると、株式への投資妙味が債券投資に比べて落ちると言われています。グレートローテーションとも言われる現象で、そのような局面では、多くの投資家が株式市場から債券市場に資金をシフトすることで、一定期間、株式相場に対する下落圧力がかかります。
今回、米国長期金利の上昇に伴い、イールドスプレッドのマイナス幅が縮小したことで、過去に株式から債券への資金シフトが起こりやすくなった水準に近づいてきました。まだ、大きなトレンドができたわけではありませんが、徐々に、株価調整が行われているように思えます。例えば、これまで、足下の売上高の何十倍もの時価総額で取引されていた超割高な株式を手始めに、株価が1日で10%以上下落するような銘柄が散見されるようになりました。例えば、米国で個人投資家が殺到していたといわれる、SPAC銘柄(https://www.akebono-am.com/?p=2025)の株価下落幅は大きいように見えます。
もっとも、株価指数の水準自体は大きく変化しておらず、SP500指数自体の変動率はあまり大きくなっていません。前述の値嵩株の価格低下が見られる一方、金利上昇の要因の一つと思われるインフレ期待の高まりに伴い、商品価格の上昇が追い風になるような業種では、高値を追う展開も見られるようです。
今回の米国金利上昇が長期的なトレンドになるかどうかはまだ分かりません。また、金利が上昇したとしても、米国の経済成長率に対する信頼が高まり、金融商品に対する期待収益率が上昇するような状況の結果としての「良い金利上昇」が続くようであれば、株式相場が一方的に下落するような局面は訪れないかもしれません。しかし、金融商品をはじめとする資産価格の上昇を警戒して、米国中央銀行が金融緩和姿勢を転換するような状況を市場が先読みし始める状況が重なれば、株式市場は将来的な需要不足を懸念して、大幅な調整を行う可能性も考えられます。当面の間、投資家は、米国の長期金利動向とFRBからの発表に敏感になるものと思われます。