年末に羽子板を見て今年を振り返るか、PPMを見て世界旅行に思いを馳せるか

私の住む浅草の12月、といえば一年を振り返るのにちょうどいい羽子板市というものがありまして、浅草寺の境内にこの週末にちょうど被った17日から19日に毎年開催される羽子板の並ぶ市なのですが、これは18日が「納めの観音」ということで一年で最後の縁日の立つ日に、人が集まることを狙って正月の品や縁起物が売られたのが起源の市なのです。で、その縁起物、というのが、羽付きの羽根がトンボに似ていて悪い虫を食べてくれる、とか、羽根の先の玉が豆に見えることから「マメに暮らせる」なんてのに引っ掛けている、ので、江戸って頃は言葉を大事にしていたんですね。それはさておき、この年の瀬の縁起物ってことですので、そうしたら一年を振り返ろうってことで、羽子板によくある和服美人を描くのではなく、その年の象徴的な出来事や活躍した人を描くと、そりゃ注目を集めるということで、羽子板に世相を読むなんていうわけです。

まぁ、そういうことですので、どうしたって大きな話ばかりが羽子板に並ぶわけですよ。しょーへーさんだったり、ビッグボスだったり、阿部兄妹に卓球ダブルス、ってスポーツのような花になることばかりがどうしたって今年は目に入って、やれ首相って誰だっけ、とか、そんな辛気臭くて仕方のないことなんて目もくれたくはない、なんてマクロを見ている運用会社がいう話か、って私は事務屋ですから世間なんて気にしないのです。

じゃあ、そんな事務屋の小さな半径の中の世界でもお陰様で一年が流れたわけですので、絵にも花にもならずとも、ちょっと一年を振り返ってみましょうか。

まずは、どうしたって語らずには置けないのが、弊社の合併ですよね。2月でした。まぁ、昨年から株主構成が変わったり、当然合併の前からその後の運営をどうしようなんて話をしていましたので、今年最初の出来事で、会社一つが消滅するくらいの話ではあれ、一連の中の一つの出来事程度にすぎない、って本当は言いたいんですよ。でも、会社が一つ消えると、会社の登記や厚生年金とか健康保険的には事務所の消滅の手続きを出したり、とはいえ、合併だから新会社で役職員が継続して加入しているようにするための書類手続きなんてのが山のように待っていました。ついでに言えば国内ファンドの登記も変更でしたしファンドと結んでいた契約全部も色々と手当てする必要があったんです。ええ、合併しました!なんて言って外を歩いている暇は事務屋にはないんです。まぁ、そもそもリモートワークでしたし。

その合併が落ち着く間も無くファンドのクロージング1回とファイナルクロージングをやりつつ、セカンダリー案件を次から次にこなしつつ、去年入ったばかりの麹町オフィス5月に閉め、本社として機能していた内幸町のオフィスを7月に閉め、汐留の新オフィスに移動ですよ。当然引っ越したからといって終わり、なので新しいオフィスに移りました!なんて無邪気に騒いでいる暇なんて事務屋にはなく、昨年の1月に五反田から引っ越してきてからの18ヶ月で引っ越し3回なんてやっても夜逃げじゃないから、とちゃんと、原状回復工事の手当てとかやりつつつ、これまたセカンダリー案件で世界中の名だたる弁護士やファンドアドミとドンパチを繰り広げてました。昼夜関係なく自宅で。

それでもって、新しいオフィスになったから、そのお披露目かねて、とウェビナーを開催しては動画を撮って、YouTubeに会社のチャネルを開いて公開してみたり、そこで研修会をやりますなんてぶち上げて、気づいたらそこで喋ることになっていて、しかも国内でほとんどセミナーの題材に取り上げられていないような、マニアしか来ないようなネタを割り当てられて、まぁ、蓋を開けてみたら、私も以前よりお世話になっている方のチームからそのネタだからと刺客が送り込まれてくる(!)始末。なのに、引き続きセカンダリー案件をあれこれこなしつつ、そのおかげで4月にファイナルクロージングしたはずのファンドの投資余力がもうほぼ無くなったということで次号ファンドの設立準備も始めているって、もうなんですの?自宅で仕事しているから通勤時間もないし、その分多く働くから大丈夫、なんて思われてるんだろうな。しかも家だから終電気にせず仕事するだろうって、私の生態が思いっきりバレている(苦笑)きっとグローバルなファンド運営会社だったら、それぞれ専任の人が腰を据えてかつそこそこ予算取って外部のプロとか連れてきてやるんだろうなぁ、ってことを全部運悪く私のチームになってしまったスタッフのみんなとで総出で、手探りの中、お手製感満載でやってきました。

そう思うと、ずっとバタバタやってきたから、何したんだっけ、って思っていましたが、いざ文字に起こすと、結構やったじゃないか、うちのチーム。事故も恥ずかしい失敗も特になく、よくやったよ、と皆さん、私のことはいいですから、弊社のチームのこと、ぜひ褒めてくださいね。

私は、といえば、知らない人の前にリアルに立って話をする、なんていつ以来でしょう。って調べたら 2018年11月のAIMAでのイベント以来でした。もう3年ですか。とはいえ、そもそも引きこもりで人見知りであがり症な私。だから、家にこもって大人しく静かに仕事している、と自分で思っていたら、最近親会社から出向できてくれているS君から、社内のコミュニケーションに使っているチャットのやり取りの中で「言葉がパンパン出てきますよねぇ」的なことを言ってもらった、ん?コメントが飛んできたので、「そりゃ、おしゃべりだからだよ。やっぱりCOOは超おしゃべりなおっちゃんだな」と返していますので、多分喋らない分チャットのコメント数が多いのだと思います。え?独り言がわりに口に出して読んでないかって?やってそうですよね、無意識に。。。

ということで、オフィスにいない分長時間労働して、勉強したはずなのに試験を受けて見事に落ちた社労士の勉強をした人間からすればどうよ、って思いますが、正直、気づいたら仕事、というかやっているファンドの運営が趣味になっていますから、体力の衰え、なんて現実を除けば、理不尽で不条理で不勉強なカウンターパーティとの不毛な交渉ですら、あれこれ与えられた情報と法規制を理解して、その中で相手の要求の本質とか、締結する契約の中に潜んでいるリスクとか、この条件って飲んだらどういうことになる?のような頭の中のイメージをフル回転させて道筋がどこにあるのか論理的な武装の仕方も併せて考えていく、ちょっとした詰め将棋のようなことの連続でしたので、それが法令上の労働時間を超えて(体重と腹囲がわずかながら(?)に増えた以外で)健康に害することが起こり得るくらいのストレスと睡眠不足にさらされていた「としても」(ええ、仮の話ですからね、仮の。。。)、正直、それらすら(たぶん、周りは不気味に、と表現しそうな表情で)笑いながら「なんとか解決しようじゃないか」って言いながら状況を楽しみ、やっている一つ一つのことを楽しんできたように思っています。(ということでこの段落を持って超長時間労働、一人ブラックの証拠、と取らないようにね。)

とはいえ、言ってしまえば、脳みその中に、交渉相手である、文字通り世界中のファンドアドミとか弁護士だったり、日本にいた営業担当だったり、といった、ビデオ会議で顔すら見たこともないその相手のリアクションやそのロケーションとかも、この場合だと妄想しながら、やっていましたので、昨年以来海外どころかほぼほぼ隅田川沿いの上流は(勢いで勝手ハーフマラソンをした時にたどり着いた)尾久橋から下流は弊社のそばにある(?)築地大橋までの間の何処かにしか行っていないような生活にも関わらず、そういった妄想空間の一部としての海外旅行をしていたように思えてきています。本当はビデオ会議をお互い家の外とかでして、自分の家の側の風景を見せれば面白かったのかもしれませんが。。。

ということで、このところ旅行という旅行なんていく暇もなければ気力もないただの引きこもりですが、そんな妄想の旅で今年行ったところをちょっとご紹介して行きたいと思います。題して「仕事のせいで話した相手のそばに行ったつもりになった妄想で世界を旅してみたら、気づいたら世界一周してた」。

まず最初は、当然日本。幸か不幸か、今年セカンダリーで取り扱った国内ファンドが23区内のものばかりですので、都内のよく知っているあのあたりとか、あのあたりにGPがいて、なんて簡単でしたね。でも、法制度的に投資事業有限責任組合だったり民法上の任意組合だったり、と法制度的に投資家を守ってくれそうな投資事業有限責任組合と、民放の一部でしかなく、当然に分別管理のような投資家を守ってくれそうな仕掛けが全くない任意組合(や商法上の匿名組合)とをついぞその法律的なリスク分析をしてしまいました。

続いてはシンガポール。ファンドアドミの世界でもシンガポールは最近活況なことで有名ですが、一時期AML/KYCがヨーロッパに比べてリラックスしているってことが要因だった、とも言われていましたが、さすが国をあげて大学を通じたファンドアドミの育成までする金融立国、AML/KYCは実際にやってみたら普通にしっかりしていました。それに、この数年シンガポールがこれまた国をあげてプロモーションしているVCC、法制度として米国マーケットにも対応できるような柔軟性もあって戦略的だなぁ、と思いましたが、ガッツリ投資先としてみて、会社型なのに柔軟に各種資産クラスでの投資で考えられる事象によく出来てるなぁ、と感心しました。もし香港もあれば、同様にプロモーションされているOFC(Open-ended Fund Company)の比較なんてすると面白いのでしょうけど。。。

さて、次は、なんとオランダです。弊社にも一時期3ヶ月ほどインターンが来ましたので、私たちの弟子のいる国、という意味でも馴染みのある国なのです。確かにEUでもファンド立国しているルクセンブルクやアイルランドでは組合型のファンドの組成も出来て、それなりに設立・運営実績ができてきた、と言われていますが、オランダのような「そうでない」国においては、その国のプロ投資家にあたる人たちを定める法規制において、組合型ファンドが前提に全く置かれてない、ということに驚いたものでした。そのおかげで、色々学び、交渉することで確認する、想像で判断しない、という最近の私の中のちょっと芽生えた行動原則の元になりました。というか、日本人でオランダの証券取引法を(英訳であっても)最初から最後まで読み切った人、いたらぜひ私までご一報を。いなかったら私が最初に日本人って名乗りますから。。。

ヨーロッパをもう少しだけ妄想しましょう。続いては、ヨーロッパならでは、という感じですが、ファンドの設立国はスコットランド、業務執行組合員はガーンジー島、ファンドアドミはルクセンブルク、というケースがあったので、これだけで十分頭がこんがらがりそうです。個人的にはスコットランド以外は行ったことのあるところですので、風景を思い出すとそれぞれいいところだったなぁ、って思うのです。さて、ファンドの世界は、設立国と運営主体と事務代行が別々にしても全然機能するというのが通常の会社と異なるいいところ、なのですがこの場合、運用関係は業務執行組合員(でも、その実態は別にあったりするんですよね。。。)、ファンドへの投資の際のKYCの対応はルクセンブルク、となるので、交渉する相手とその背景というのもガラッと変わるので、運用者なんだからなんとかしてよ、なんて交渉が通用しない世界でもあったりします。しかも、日本でも時々見られるのですが、法律の解釈を病的に自分達を守るべく潜在的(かつ実質として報酬を払う)顧客に合理的観点で見て不必要なものを出させる手間とコストを押し付ける、っていうことがあり、世界は思ったほど場所が変わっても人間はやることに変わりがないのかも、と思ったりしました。一方で、そんな不条理な要求に他の日本の名だたる投資家たちは無条件で受け入れて対応していた、というのを聞いて正直愕然としたのも内緒です。ルクセンブルクは緑深きいい街なんですけどねぇ。。。

そして、大西洋を渡りカリブの島、ケイマン諸島のファンドを、と思いつつも、アドミが我が第二の故郷、ジャージー島ってファンド、多かったなぁ。おかげでジャージー島の首都、St. Helierの街のネタでアイスブレイクして、殺伐となりがちな KYCの手続きを和やかに進められたので個人的には助かるのですが、本当にしばらく行ってませんねぇ。あののんびりとした島に。ケイマン諸島は、これだけ仕事であれこれやっているのに、本当にいった事がないですね。いくとゴルフとスキューバが楽しめる、というのですが、外国人が宿泊すると一泊100ドル以上の税金がかかる、という島でも有名です。でも、小さな島の水道や電気などのライフラインの維持を考えると当然なんですよね。だから、ファンドも出来るだけ登記だけ受け付けて、世界中にお任せする、って合理的な戦略を取っているのです。同様に、ジャージー島も9万人程度の小さな島なんですけど、雇用を生み出し、守る都合で結構厳しいルールをあれこれ作っているので、多分世界で一番厳しいファンドの法令を持つ国、で売っているのです。ですので、大好きなんですけど、ジャージー籍のファンドは個人的には作って運営したくないです。。。

さて、ケイマン諸島に辿り着いたので、先ほどの話にちょっと戻るのですが、例えば世の中で多分一番使われている組合ストラクチャー、ケイマン諸島の免税有限責任組合 (exempted limited partnership、略して ELPS)ですが、これは「ケイマン諸島の外」で組合として「事業を行う」ことが前提でないと設立が出来ないのです。ですので、ケイマン諸島としては島外の経済行為だから(登記等の設立関連以外の)課税をしない、と定めているわけですから、当然にケイマン諸島の税務当局には課税手続きなんて存在しないのです。ということは、税務法令遵守について、なんて質問をもし間違えてケイマン諸島のELPSに訊ねてしまった場合、世界中の誰もが「存在しない法制度に遵守する」、言い換えると「ないお約束を守る」という小学生が考えても「無理、出来へん、あかんやつだ」という状況に陥るのです。それをケイマン税法に明るくなく、現地の税法を取り扱える資格も大抵は持っているはずもない日本の税理士が「ファンドは設立国の税務法令を遵守しています」なんて表明保証書にサインさせられては病的なKYC担当者に出させられて彼らの当局への法令遵守報告にだけ役立っている、って知ったらどう思うでしょうね。ある意味出来ないことをやっている、って証明ですから虚偽の証明になるのか、数年後の年末に眺める今年の世相羽子板のように、懐かしいけど絵に描いた過去の栄光の如く、当局がその表明保証を読んだその瞬間には全く意味にな紙切れ扱いになるのか。。。

ということで、もしPPMを読んだら、そのファンドの設立国の法令や税制はもちろんのこと、ファンドアドミの実質的な活動拠点を踏まえてKYCを準備する、というようなストラクチャーから法令遵守周りの負荷や負担などが読み取れますって、これまたいつになるかわからない研修会のネタの一部の取って出し、でしたが、とはいえ、ファンドだけで世界一周が出来て、楽しい観光と和やかな交渉も、不条理で苦しい交渉ごとも等しく追体験できるって、妄想ってのは脳内のいいトレーニング、ですね。要は楽しいかどうかは偏見・バイアスにまみれた個人の感情が張り付けるタグ、でしかない、のですが、いずれにせよ、これは引きこもりの数少ない楽しみってことで。。。

お後がよろしいようで。